クリス・フルームがツール・ド・フランス2021を完走した。
順位は知らない(と言うかアシストに順位は関係ない)。
メディアで大きく報道されることもない(何処かの国のようにように感動だけを安売りする風潮もどうかと思うが…)。
それでもこれが結構な偉業であることを、サイクルロードレースを知らない方々のために喩えるならば…
往年のマラソンランナーが突如、後進の世界記録をアシストするため30kmまでのペースメーカーを引き受け、しかし何故かその役目が終わった後も走り続け、ごく平凡なタイムで誰にも注目されずにゴールする。
とか
通算200勝まで秒読みだったベテラン投手が、突然の交通事故によって利き腕を開放骨折したものの奇跡の復活。ただし一日で投げられる球数は50球まで。そこで彼はチームの勝利に貢献するためだけにクローザーとしての余生を選択する(当然ながら、彼の名球会入りは叶わなかった)。
あたりかな。
閑話休題
開放骨折は普通の骨折とはラベルが違う(感染症のリスクや元通りになる可能性も極めて低く、ギブスを付けて大人しくしていれば良い訳ではない)。
ましてや大腿骨はアスリートにとっては生命線である(鎖骨や肋骨とは動きが全然違うのだよ)。
まぁ脚だけで何億円も稼いでいた人間だけに、最先端の施術を受けたのは間違いない(もし仮に私が彼のような待遇を受けていたら、今頃は普通に自転車に乗れてたはず)。
それでも怪我から2年ちょっとで、3週間に渡る世界一過酷とも言われるツール(その中でも今年は特に過酷だったらしい)を完走したのである。
フィジカルな面だけではない。
怪我をする前の彼は、大相撲で言えば横綱のような名実共のチャンピオンとして、常にその一挙手一投足が注目され、優勝争いに絡むのが当然とされていた。
それが今回は、歴史の浅いチームに移籍し、且つアシスト(形式上はエースだったのかな?)として出場したのである。
実際のレースでも優勝争いに絡むことはなく、グルペット(仕事の終わったアシストや、その日は仕事のないスプリンターたちの、完走だけが目的の後続集団)と共にゴールすることも多かった。
それに恐らく、ポガチャルなどの若手の活躍を目の当たりにして「自分の時代は…」と内心では痛感しているはずである。
それでもシャンゼリゼに戻ってきた精神力は、凡人にさえ計り知れない驚異と言えるのではなかろうか。
えにぃうぇい
正直に言えば、昔の彼は優等生過ぎて好きではなかった。
ドーピング疑惑も結局は有耶無耶になって、げんなりした。
今回のツール出場も、自分の復活をそれなりにアピールし、チームの宣伝にある程度貢献した時点でリタイヤするものとばかり思っていた。
しかし今回の完走は、それらを全て払拭する位の偉業であると私は思う。
皮肉屋のフランス市民も、以前は彼に対してはブーイングの嵐だったが、今年は称賛の拍手喝采だったと聴く。
開放骨折からの復活を願う私にとっても、貴方は希望の星となった。
貴方を誇りに思うのは貴方の母だけではない。
Might not be a yellow jersey, but I've been proud of you too.
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